【アメリカ】医療大麻合法化の波/CBDMAX(シービーディーマックス)

コロラド州医療大麻支援団体のピクニックで発作を起こした娘のシドニー・ユネックをいたわるホリー・ブラウン氏。写真の4人はカンナビジオール(CBD)を手に入れるため、嗜好用および医療用のマリファナが合法化されているコロラド州に移住してきた。CBDはマリファナの活性成分の1つだが、精神活動に影響を及ぼすことはなく、一部の小児てんかんを軽減または予防する作用がある。(PHOTOHGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

米国における大麻使用者は、2000万人を上回る。連邦法では所持も吸引も違法だが、23州と首都ワシントンD.C.では、医療用の大麻が合法化された。嗜好品としての使用についても、多くの州で罰則が軽減されたり、撤廃されつつある。

医療大麻の合法化に反対する人々は、子どもへの影響を根拠にしてきた。「子どもたちのことを考えろ」は、最強の政治的行動原則だ。けれども今、子どもたちの苦しみが、連邦政府による規制を緩和に向かわせようとしている。

子どもたちの発作に効果

米国では現在、数千人の子どもたちがドラベ症候群とレノックス‐ガストー症候群に苦しんでいる。どちらも小児期に発症する稀なてんかんで、毎日何十回も何百回も重い発作が起こるが、通常の抗てんかん薬はまったく効かない。


デンバーの東に広がる灌漑畑では、外側に植えたトウモロコシを目隠しにして大麻が栽培されている。
この品種の大麻は、薬効が期待されるCBDの含有量が高く、精神活動に影響を及ぼすTHCはほとんど含まない。収穫された大麻の一部は、小児てんかんの治療に用いられるCBDオイルに加工される。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

昨年、米国食品医薬品局(FDA)は、エピディオレックスという薬物の臨床試験を許可した。この薬物は、大麻に含まれる85種類の活性成分(カンナビノイド)の1つであるカンナビジオール(CBD)を原料にしている。初期の臨床試験からは有望そうな結果が得られていて、12週間の治療を受けた患者の54%で発作の回数が減少し、9%は発作が全く起こらなかった。臨床試験は次の段階に進み、偽薬を使った対照試験が行われている。(参考記事:ナショナルジオグラフィック2015年6月号『マリファナの科学』

一方、科学者たちはCBDの作用メカニズムの解明にのりだしている。同じカンナビノイドであっても、CBDはテトラヒドロカンナビノール(THC)のように精神に作用することがない。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科てんかんセンターの所長で、エピディオレックスの研究にも参加したジョゼフ・サリバン氏は、「マリファナの活性成分のうち、強い抗てんかん作用を示すのはCBDだけであることが分かっています。品種改良により、THCの含有量が低く、CBDの含有量が高い大麻が新たに作られています」と言う。


ロサンゼルスの医療用CBDオイル製造所で作業をするレイ・ミルザベジアン氏。彼は、ドラベ症候群という小児てんかんに苦しむ自分の娘のためにCBDオイルの製造を始めたが、今では50人以上の子どもが彼のオイルを利用し、1000人以上が予約待ちをしている。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

科学者によるCBDの研究は、法律と官僚主義に何度も阻まれてきた。CBDには精神を高揚させる作用がないにもかかわらず、マリファナの活性成分であることを理由に、規制物質法により「スケジュールI」に分類されているからだ。このスケジュールに分類されるのは、LSDやヘロインなど、「乱用のおそれが高く」、「現時点で米国における医療目的での使用が認められていない」薬物だ。

合法化への道程

オバマ政権や米国議会には、マリファナカンナビノイドが医学的恩恵をもたらす可能性があることを認め、研究への制限を緩和できるようにスケジュールを変更する権限がある。けれども、米国屈指のシンクタンクであるブルッキングス研究所のジョン・ハダック氏は、マリファナのスケジュールが変更されることはしばらくないだろうと予想している。

世論調査によれば、保守的な州でも医療大麻への支持が広まっている。とはいえ医療大麻の合法化を強く求める人々はあくまでも少数派で、市民の間にはマリファナに対する根強い恐怖があるため、選挙で選ばれる政治家は積極的に取り組もうとはしないからだ。

けれどもハダック氏は、CBDを研究したいという科学者や医師の声がもっと大きくなれば、一般の人々のカンナビノイドへの抵抗感を弱められるだろうと考えている。そして近年、カンナビノイド薬への関心が高まっているのは、医師の意識に変化が生じているからだと見ている。彼の言葉を借りれば、「医師の意識を変えるのは政治家の意識を変えるよりはるかに難しい」ので、これは重要な変化である。

米国小児科学会は今年初めて、「現時点で適切な治療法がなく、命を脅かし、あるいは激しい衰弱をもたらす」小児疾患の治療薬の開発を促すために、マリファナのスケジュールの変更を求める声明を出した。「もっと多くの医学会がカンナビノイド薬への支持を表明するようになれば、政治家は選挙民の理解を得て改革を進めやすくなるでしょう」とハダック氏は言う。

連邦政府カンナビノイド薬についてどう考えているのだろうか?

それを推し量るためのヒントになるのが、連邦政府が唯一大麻の栽培を認めているミシシッピ大学への対応だ。同大学は、米国国立薬物乱用研究所(NIDA)の監督下で研究用の大麻を栽培しているが、この4月には「カンナビジオールに関する研究および薬物の開発が予想以上に増加している」ことを理由に、大麻の栽培量を予定の3倍に増やすように要請された。また、同大学が直接カンナビジオールを製造することも許可された。